不適切会計、不正会計、粉飾決算 - 有名企業の事例

不適切会計、不正会計、および粉飾決算の事例と手口、影響

ニュースなどで大手企業による不正会計の事例を耳にすることもあると思います。不正会計と聞いても、具体的にどのような行為が不正となるのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。この記事では、日本の有名企業で起きた不正会計の事例を5つ紹介します。

不適切会計、不正会計、および粉飾決算とは

不正会計粉飾決算は、改ざんや隠ぺいが「意図的に」行われた場合に使われます。不適切会計意図的に行われたかどうかが不確実な場合に使われます。また粉飾決算は、不正会計の一種で財務状況を良く見せている場合に使われます。

不適切会計、不正会計、粉飾決算とは-その違いや原因、対策について」の記事にてより詳しく解説しています。

不適切会計、不正会計、粉飾決算 - その違いや原因、対策について - Genial Technology

不適切会計、不正会計、粉飾決算はよく似ていますが、異なる事象を指します。本記事ではその意味、原因、防止策について詳しく解説します。

カネボウの事例

日本の大手化粧品会社であるカネボウは、2005年に粉飾決算が発覚しました。1996年から2004年まで9期連続で債務超過だったことと、不適切な会計処理による粉飾総額は2,150億円にもおよぶことが判明しました。これは、事業会社の利益操作としては過去最大規模の粉飾総額でした。

これを受け、2005年6月にカネボウは上場廃止し、2007年6月の定時株主総会で解散を決議しています。
カネボウの監査を担当していた公認会計士4名が逮捕され、うち3名が刑事罰を問われました。当時の監査法人は、2カ月間の業務停止命令を受け、信用回復に至らず2007年7月に解散しました。

オリンパスの事例

日本の代表的な光学機器・電子機器メーカーのオリンパスは、2011年に粉飾決算が発覚する「オリンパス事件」と呼ばれる事件がありました。
この事件は、1990 年代前半のバブル崩壊により発生した金融商品の巨額の含み損を「飛ばし」という手法で約20年間隠し続け、さらに不正な手法で会計処理した事件です。2011年7月に雑誌のスクープと社長の解任騒ぎをきっかけに一大経済スキャンダルとして世間の大きな注目を集めました。

事件の影響で会長は辞任、不正に直接関与した3人のほか、投資コンサルタントらも金融商品取引法違反等で逮捕され、その後起訴されました。
会社としても、株価は2,400円から424円と急落し、上場廃止の危機に陥りました。しかし、国内の他社が救済的増資に応じたことにより、東京証券取引所が特設市場注意銘柄に指定し、上場廃止を免れました。

飛ばしとは

飛ばしとは、決算対策のために企業が保有する評価損(含み損)を抱えた有価証券(株式・債券等)を、買い戻し条件付きで時価とかけ離れた高値で第三者(他社)に転売することを指します。決算日に有価証券の時価評価をしなければいけない場合、一時的に会計上の損失を飛ばすことができますが、損失補填にあたる違法行為です。

評価損(含み損)とは

評価損とは、「含み損」とも呼ばれ、市況動向によって常に価格変動リスクのある資産や投資対象を市場価格で計算(評価)した時に損失が出ている状況をいいます。これは、ある時点での潜在的な(評価上の)損失額のため、実際に売却や決済をするまでは金額が確定しません。

東芝の事例

日本の大手電機メーカーである東芝は、内部通報により2015年に不正会計が発覚しました。「インフラ事業における工事進行基準」「映像事業の経費計上」「半導体事業の在庫評価」「パソコン事業の部品取引」の各分野で不正が行われ、1,500億円以上が水増しされました。リーマンショックによる経営悪化と上層部からの圧力を背景に組織的ぐるみの不正が疑われたことから、当時の監査法人や、その後就任した監査法人も巻き込む事件になりました。

2015年12月に東芝の粉飾決算を見逃したとして、当時の大手監査法人が金融庁から行政処分を受けています。また2018年7月に東芝の不正会計を受けて、米国の投資家グループが集団訴訟を起こしています。
他にも日本国内では東芝に対する複数の損害賠償請求が起こされており、2018年2月の時点で訴訟額の合計は1,740億円に上ります。

はれのひの事例

着物の販売やレンタル業を行う着物店のはれのひは、2018年1月8日の成人の日に、福岡天神店を除く全店舗を閉鎖したうえ、社長の所在も掴めない事態になりました。
2015年9月期の決算を粉飾して約4,800万円の売上高を架空計上するなどして債務超過を隠していました。また2016年9月までの間に返済する意思がないにも関わらず、10の金融機関から18回にわたり計約6億円の融資を受けていたことが発覚しました。融資金をだまし取ったことによる詐欺罪により刑事時点に発展しました。融資の名目は新規の出店費用や当面の運転資金などとしていたようです。

2018年1月に破産手続きの開始が決定し、2018年6月に同社の元社長は逮捕され、懲役2年6ヶ月の実刑判決が下されました。
成人式直前に店舗を閉鎖した影響で、横浜市や東京都八王子市で晴れ着を着られなくなった新成人が続出する騒動となり、ニュースで大きく取り上げられました。

グレイステクノロジーの事例

産業機械やソフトウェアメーカー向け技術マニュアルの制作を行うグレイステクノロジーは、2021年11月に不正会計が発覚しました。「売上の早期計上」「受注見込みのある案件の架空売上計上」「受注見込みすらない案件の完全架空売上計上」で不正が行われ、売上高の約3~4割は不正による水増し計上だったことがわかりました。
グレイステクノロジーは監査法人にも分からないように巧妙に偽装をしていました。例えば担当会計士がグレイステクノロジーの顧客企業に、「残高確認状」を送ると、社員が先回りして顧客からそれを回収し、「問い合わせに相違なし」と記載して送り返していました。その際、相手企業には「監査法人が確認状の中身を他社と間違えて送ってしまった」などと連絡し、ごまかして回収していたということです。

2020年12月には、1株4,235円の値をつけていたグレイステクノロジー株ですが、不正発覚後、株価は下落を続け、2022年1月には58円まで値を下げました。
2022年1月に特別調査委員会から調査報告書を受け取りましたが、延長後の期限までに第2四半期報告書を提出することができないという理由で、2022年2月に上場廃止となりました。

まとめ

本記事では、不適切会計、不正会計、および粉飾決算とはどのようなものなのか、日本の有名企業の事例とあわせて紹介しました。

これらの不正行為は、会社や投資家や債権者などの利害関係者に大きな損害をもたらすことがあります。これらの不正会計をきちんと把握し、定期的なチェック体制の整備等の様々な対策が必要です。具体的な対策については「不適切会計、不正会計、および粉飾決算とは-その違いや原因、対策について」にて紹介しています。

参考文献
・カネボウ粉飾決算の構図と連結会計基準の変更:https://www.waseda.jp/fcom/riba/assets/uploads/2019/04/48_3.pdf
・Legal Search:https://legalsearch.jp/portal/column/powdered-settlement/
・SaaS Log:https://kigyolog.com/article.php?id=1502#1-0
・朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/ASL6T54RQL6TULOB00Q.html
・オリンパス事件の分析-リスクマネジメントの観点から-:https://www.kansai-u.ac.jp/Fc_ss/english/report/study/pdf/bulletin008_11.pdf
・iFinance:https://www.ifinance.ne.jp/glossary/account/acc224.html