不適切会計、不正会計、粉飾決算 - その種類と手口について

不適切会計、不正会計、および粉飾決算の種類と手口

不適切会計、不正会計、および粉飾決算は、財務諸表を改ざんしたり、経営状態の適切な把握に必要な情報を隠蔽したりすることを言います。こういった不正が発覚すれば、企業の信用やイメージに傷が付くことは避けられません。企業価値・信頼性の失墜につながり、最悪の場合、企業存続が難しくなることさえあり得ます。
企業の健全な経営体制を維持するためにも、これらの不正会計の種類をきちんと把握することが必要です。
本記事では、これらの不正会計の種類と手口を分かりやすく解説します。

不適切会計、不正会計、および粉飾決算とは

不正会計粉飾決算は、改ざんや隠ぺいが「意図的に」行われた場合に使い、不適切会計意図的に行われたかどうかが不確実な場合に使われます。また粉飾決算は、不正会計の一種で財務状況を良く見せている場合に使われます。

不適切会計、不正会計、粉飾決算とは-その違いや原因、対策について」の記事にてより詳しく解説しております。

不適切会計、不正会計、粉飾決算 - その違いや原因、対策について - Genial Technology

不適切会計、不正会計、粉飾決算はよく似ていますが、異なる事象を指します。本記事ではその意味、原因、防止策について詳しく解説します。

横領(資産の流用)

会社の資産を無断で自分のものにする行為を指し、以下のような例が挙げられます。

1.売上金や回収金などの着服

現金で受け取った代金を会計帳簿に記録する前に流用したり、振込先として個人の銀行口座を指定して入金させたりする手口です。

2.物的資産の窃盗又は知的財産の窃用

小口現金を抜き取る、在庫や備品をオークションサイトなどに横流しする、機密情報を競合企業へ販売するなどの手口です。

3.正当な承認のない担保提供

個人またはその関係者の借入金の担保として会社の資産を利用するなどの手口です。(参考:監査基準委員会報告書240)

循環取引

循環取引とは、複数の企業が共謀して、商品の転売や役務の提供をグループ内で繰り返すことにより、取引が存在するかのように仮装し、売上や利益を不正計上する取引を指します。循環取引には「スルー取引」、「Uターン取引」(まわし取引)、「クロス取引」(バーター取引)などがあります。
(参考:日本公認会計士協会のリーフレット「循環取引は不正です!」)

1.スルー取引

自社が受けた注文について、物理的・機能的に付加価値の増加を伴わず他社へそのまま回し、帳簿上通過するだけの取引。複数の企業が共謀して売上を水増しするために実施されることが考えられます。
転売目的で仕入れた商品をそのまま次の業者に流す「スルー取引」で売上を計上して利ザヤを稼ぐこと自体は合法ですが、取引先と結託して架空の商取引を創作し、商品のやり取りがあるように伝票を操作することは粉飾決算なので違法行為となります。

2.Uターン取引(まわし取引)

商品・製品等が、最終的に起点となった企業に戻ってくる取引。複数の企業を経由する間に手数料等が上乗せされた状態で、商品・製品等が起点となった企業へ還流されます。

3.クロス取引(バーター取引)

複数の企業が互いに通常の価格より高い価格水準にて商品・製品等を販売し合い、在庫を保有し合う、又はある企業が在庫を保有せずに他の複数の企業に対し相互にスルーする取引。取引相手と共謀して自社の商品・製品等を高い価格で販売する代わりに、相手の商品・製品等についても通常価格よりも上乗せした価格にて購入することで、互いに売上を良く見せようとすることを指します。

循環取引の特徴

循環取引は、意図的に仕組まれて正常な取引条件が整っているように見える場合が多く、具体的な特徴としては以下が挙げられます。

  • 取引先は実在することが多い。
  • 資金決済は実際に行われることが多い。
  • 会計記録や証憑の偽造又は在庫等の保有資産の偽装が行われることが多い。

押し込み販売

押し込み販売とは、売上目標の達成や在庫処分のために商品を強引に販売して帳尻を合わせることを指します。基本的には顧客側が必要とする量より多い商品や、そもそも注文していない商品を販売します。顧客側は必要以上の在庫を抱えるため、年度が変わった後に返品をしたり、在庫がはけるまで新規の注文を控えたりします。

押しの強い営業との違い

押しの強い営業とは、営業社員の個人的な営業スタンスの話であり、積極的に売り込む姿勢のことです。それに対して「押し込み営業」は不正です。
この2つは似ているようで問題の大きさが全く異なります。押しの強い営業も、一歩間違えれば「押し込み販売」になるリスクがあり、度を越えた営業は「コンプライアンス」の観点からも問題になり得るため、注意が必要です。

架空計上・過大計上・先行計上

架空計上

架空計上とは、実際には取引が無いにも関わらず財務諸表に計上することを指します。いくつかの例をご紹介します。

1.仕入の水増し

仕入先や外注先と通じて、実際より多額、または実在しない仕入や外注費を計上することを指します。実際に水増しした請求書を送ってもらい、必要経費として計上しているケースもあります。 期末が近くなり、税額を減少させるために不当にこれらを計上すると、事業年度最終月の仕入高や外注費が他の月に比べて高額になる傾向があります。

2.外注費の架空計上

存在しない架空の外注費を計上することを指します。現金で外注費を支払ったことにして、一般に販売されている領収書を利用して金額を書き込みます。税務調査官は外注費の相手の氏名や名称、住所などを確認して、相手方が貰った金額に関して確定申告をしているか調査することで領収書の捏造を発見できます。

3.人件費の架空計上

実在しない従業員に給与を支給することを指します。脱税行為であり、重加算税の対象になります。
例えば、既に退職したパート社員5名を退職後も勤務しているかのように装い、出勤簿及びタイムカードを捏造して、これらに対して不当に人件費を計上するケースがあります。このようなケースでは、不正の発覚を警戒して、人件費の支払は実際に勤務している社員の分も含めて全て現金支給としていることが多いです。

売上の過大計上

売上の過大計上とは、売上高を実際よりも大きく計上することを指します。
企業にとって、各期にどれくらい売上を創出できたかは重要な指標になります。そこで売上を過大計上し、実際より多くの売上が上がっているように見せかけるケースがあります。その結果、業績が良いと評価されるため外部から資金調達を行いやすくなります。

売上の先行計上

売上の先行計上とは、翌期以降に計上すべき売上高を当期の売上高としてしまうことを指します。
売上先行計上は利益の先食いによって見かけ上の業績が良く見えます。しかし、実際には損失を先送りしているため、ある時期に一気に業績が悪化するケースが多いです。

架空在庫

架空在庫を計上するとその分だけ売上原価が減り、利益が増えます。「在庫が増えたら利益は減るのでは?」というのが一般的な感覚かと思いますが、この手口では売上高を操作せずに在庫だけを故意に増やすことで売上総利益を水増しすることができます。

架空在庫の仕組み

商品を仕入れて、その商品を売り上げる。この一連の取引により、初めて利益が生まれます。つまり、仕入と売上が一体になって初めて利益が生まれると言えます。逆を言うと、売上と仕入が独り立ちする状況はありません。仕入れたにもかかわらず、まだ売れていないものが在庫となります。

仮に、1,000円で仕入れた商品が売れ残ったとします。この1,000円の商品はまだ売れていないため、この1,000円を売上原価から除く必要があります。この売上原価からの除外によって「仕入」という費用が、「棚卸資産」つまり【在庫】という資産になり、その分費用が減ります。

このカラクリにより実際は存在しない在庫を捏造することによって利益が出るわけです。

ただし、実際には損失を先送りしているだけですので、同程度の業績が続くと翌期末には当期以上に深刻な状況になります。そのため、やむを得ずまた架空在庫の計上に手を出してしまう悪循環が発生します。このようにどこかで調整をしたら、必ずどこかで反動が出てきます。

まとめ

本記事では、不適切会計、不正会計、および粉飾決算の種類と手口について詳しく解説しました。前述通り横領、循環取引、押し込み販売、架空売上計上、架空在庫など、様々な手口があることがわかります。これらの不適切会計や不正行為は、会社や投資家や債権者などの利害関係者に大きな損害をもたらすことがあります。これらの不正会計の種類をきちんと把握し、定期的なチェック体制の整備等の様々対策が必要です。具体的な対策については「不適切会計、不正会計、および粉飾決算とは-その違いや原因、対策について」にて紹介しています。

参考文献
・jicpa 日本公認会計士協会:https://jicpa.or.jp/business/ipokansa/awareness.pdf
・税理士法人MFM:https://tax-mfm.com/funshoku-kessann-uriage/