ヒューマンエラーとは-種類、原因、対策例について

ヒューマンエラーとは何か-前編:種類、原因について

人間は完璧ではなく確認をしても誤りや失敗は発生してしまうものです。どんな職場でもヒューマンエラーが起こる可能性はあります。
これらのヒューマンエラーは小さいミスから企業に深刻なダメージを及ぼすミスまで幅広い種類があります。
これを回避するには、ミスが生じる原因を解明して対策する必要があります。
本記事では、ヒューマンエラーの種類や原因、対策例について解説します。

ヒューマンエラーとは何か

ヒューマンエラーとは、人間が原因となって生じた誤り(ミス)のことを言います。
先入観、思い込み、見落としなどが要因となる場合もあり、引き起こした人は故意にミスを起こすつもりはありません。
ヒューマンエラーの結果生じるトラブルや事故は、小さなものから企業に深刻なダメージを及ぼすものまで幅広いのが特徴です。

なお、会計にかかる誤りのうち意図的かどうか不明なものは「不適切会計」と呼ばれ、エラー(誤謬)不正会計(会計不正)から構成されています。
決算書に影響を与えるヒューマンエラーは会計上のエラー(誤謬)に含まれます。

種類

ヒューマンエラーは、大きく分けて「ついつい・うっかり型」と「あえて型」の2種類に分けられます。

1.ついつい・うっかり型

ついつい・うっかり型のヒューマンエラーは、無意識の行動により引き起こされます
みなさんも「そんなつもりではなかったのについついミスをしてしまった」という経験があるのではないでしょうか。

これらのエラーは大きく次の4つに分類されます。
実際のエラーはいずれかひとつに分類されることは稀で、いくつかのエラーが重なり合ったり、関係しあったりして発生することが多いです。

  1. 記憶エラー
    特定のルールや作業を覚えられない、思い出せないことなどで生じるミス
  2. 認知エラー
    誤った思い込みや勘違い、見落とし、見間違え、聞き間違えなどにより起こるミス
  3. 判断エラー
    現在の状況や次に行うべきことについて間違えて判断することで生じるミス
  4. 行動エラー
    方法や手順を間違えることで生じるミス

2.あえて型

あえて型のヒューマンエラーは、慢心や自己顕示欲による手抜きによって引き起こされます
例えば「決まり事を守らない」「横着をする」「手抜きする」などの行動がきっかけで生じるミスです。

3.ヒューマンエラーに分類されないミス

人間以外が原因となって生じたミスはヒューマンエラーではありません。
例えば、機械トラブルによる事故やマニュアル通りに作業をしたにも関わらず起こったトラブルや事故の原因はヒューマンエラーに分類されません。
機械が故障していた、マニュアルそのものが間違っていた、あるいは何か想定外のことが起きてトラブルや事故になったと考えられます。

ただし、マニュアルや規則がそもそも間違っていたケースにおいて、マニュアルや規則の検討不足や確認不足はヒューマンエラーに分類されます。

ポカミスとは

ヒューマンエラーの類義語で、製造現場などで多用される「ポカミス」とは不注意から引き起こされた思いがけないミスのことです。
ポカミスの「ポカ」は囲碁将棋の世界で「考えもよらない悪手を打つこと」を意味します。
製造業において、ポカミスは作業効率の悪化や不良品の発生、機械の故障といったトラブルや事故の原因になりかねません。

ヒヤリハットとは

トラブルや事故にはならなかったものの「ヒヤリ」とした、「ハッ」としたミスの記憶がみなさんにもあるのではないでしょうか。
そういった「ヒヤリ・ハット」のヒューマンエラーを対策せずにそのまま放っておき、それが積み重なっていくと大きなトラブルや事故に繋がるリスクが大きくなります。

ハインリッヒの法則」とは、1件の重大なトラブルや事故の背景には、軽微なトラブルや事故が29件、300件のヒヤリハットが潜んでいるという法則で、「1:29:300の法則」とも呼ばれます。
トラブルや事故の件数に一喜一憂するのではなく、1件の重大なトラブルや事故に対する300のヒヤリハットの数に目を向けるべきです。
例えば、重大なトラブルや事故がゼロでもヒヤリハットが100件あれば、重大なトラブルや事故に繋がりうるヒューマンエラーが100件存在することになります。

ヒューマンエラーが起こる原因

ヒューマンエラーが起こる原因を種類ごとにあげていきます。

1.ついつい・うっかり型

記憶エラー

特定のルールや作業を覚えていられなかったり、うっかり忘れてしまったりする記憶エラーが起きる背景には以下の原因が挙げられます。

  1. 知識やスキル・技量不足
    業務に関する知識や経験が少ないと、記憶エラーが発生しやすくなります。
  2. 人間の自然な動作や感覚と操作性に乖離がある
    例えば、物理的に扱いづらい機器や配置に問題がある機器の操作において、記憶エラーが生じやすくなります。

認知エラー

思い込み、勘違い、見落とし、読み間違い、聞き間違いなどの認知エラーは無意識によって発生するため、勘違いした理由を本人が把握していない場合もあります。
認知エラーが起きる背景には以下の原因が挙げられます。

  1. 情報が覚えにくい
    専門用語が多い、操作が複雑など、情報を把握しにくいと実際の業務と認知に差が生じやすくなります。
  2. 記憶内容が薄れていたり変化したりしている
    定期的に業務内容を把握しなおしていないと、特に頻度の低い処理や例外処理などにおいて、思い込みや勘違いが起こりやすくなります。
  3. 先入観や固定観念、思い込み
    例えば、使うべき書類のフォーマットが更新された場合において、旧版フォーマットを使うべきだと思い込んでいると認知エラーが発生します。

判断エラー

現状や次に何をすべきかを誤って判断してしまう判断エラーは記憶エラーや認知エラーが原因となることが多いです。
その他には以下のような理由が挙げられます。

  1. 情報が間違っている、漏れている
  2. 情報を受信しにくい
  3. 連絡・連携不足

特に複数人が関与する業務で判断エラーが発生しやすい傾向にありますので、組織としての取り組みが必要です。

行動エラー

誤った方法や手順を採る行動エラーは不注意、見落とし、確認忘れなどが原因で生じます。あえて型ヒューマンエラーとは異なり、意図せずにその方法や手順を実施してしまうケースを指します。

2.あえて型

業務を楽にしようと定められた手順の省略が原因で発生するミスです。慣れによる手抜き・近道行動・省略行動などがあげられます。
それらの行動がどのような悪影響があるのかを理解できず、危険を軽視している際に生じます。成長過程の新人や習熟度の高いベテランが起こしやすいミスです。

3.共通

以下のような状況になると、ついつい・うっかり型ヒューマンエラーもあえて型ヒューマンエラーも発生確率が上がります。

  1. パニック
    予測できない事態や過度のプレッシャーによって生じる状態です。
    パニックに陥ると、通常なら容易に判断できる物事が正常に処理できなくなります。
    誰もがパニックに直面し得る前提で対策を練ることが重要です。
  2. 過集中
    ひとつの物事に集中し過ぎて周囲が見えなくなって他の大切な情報を見落としやすくなる、業務に不慣れな新人に起きやすい状態です。
    複数の業務を同時にこなす場面では予期せぬミスに注意が必要です。
  3. 疲労・集中力低下
    長時間残業が多い、または勤務体制が厳しい職場では発生しやすい状態です。
    本人も自覚がなく疲労が溜まっている場合が多くありますので、充分な休息をとることが重要です。

ヒューマンエラー対策

ヒューマンエラーを防ぐための対策の検討手順

手順1:過去と現在のヒューマンエラーをリスト化する

小さいヒューマンエラーも含めてリスト化して対策を検討する基礎とします。
エラーの多くは現場で起こっているため、管理側だけでリスト化しようとせずに現場側でもしっかりと洗い出すことが重要です。

手順2:既に安全対策が取られているヒューマンエラーを外す

できるだけ多くのヒューマンエラーを把握したら、対策が打たれているのかどうか調査し、対策済の項目をリストから外します。

手順3:残ったヒューマンエラーの原因を考える

前述であげた原因のうち、どれが要因となったヒューマンエラーなのか考えます。

手順4:ヒューマンエラーへの対策を検討する

原因へ対処する方法を列挙します。
実現可能かどうかは考えずに、できる限りたくさん候補をあげるようにします。

手順5:実施する対策を絞り込む

全ての対策を実施するのは現実的ではありませんので、想定される効果とコスト(予算・手間・時間)に合わせて実施すべき対策を絞り込みます。

ヒューマンエラーを防ぐための対策の例

ヒューマンエラーは不幸な要因の組み合わせによって発生します。
いくらセキュリティ面を強化してもシステム運用を標準化しても、業務を行うのが人間である以上、「ミス」をゼロにすることは不可能です。

ここに挙げる対策はほんの一例です。
企業ごとのコスト・規模・環境に適した対策を講じることが推奨されます。

デジタルツールや機械の導入

ヒューマンエラーが起こりがちな業務に対しては、RPA(Robotic Process Automation)を代表とする、デジタルツールや機械などの導入が効果的です。
業務をデジタルツールや機械に任せて自動化することで、ヒューマンエラーを削減できます。
また、定型業務を機械化することで慣れや疲れなどを原因とするヒューマンエラーを防止できます。

すべての⼈的作業を削減するのは難しいですが、⼯数削減や作業⽅法の⾒直しをによる業務効率化が図れ、⼈件費の削減や他の重要な業務へのリソース配分が可能になります。

確認体制の構築・強化

相互チェックなど確認体制を構築したり強化したりします。自分のミスには気付きにくいものですが、他人のミスは客観的に探せるものです。
ただし新入社員が上司のミスを発見したとき、組織風土によっては委縮して伝えられない可能性があります。
このため、担当者の組み合わせに注意する必要があります。

ルールや手順の単純化

5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が行き届いている環境では、効率だけでなく生産性も上がり、ヒューマンエラーが起きにくいとされています。
ここでの整理整頓の対象は、工具や書類などの物理的なものだけでなく、パソコンやファイルサーバーのフォルダなども含みます。
必要なものがアクセスしやすい場所にあるだけで、取り間違いや添付ミスといったヒューマンエラーを防げるようになります。

フールプルーフ

フールプルーフとは、「間違った操作が出来ないような設計」のことです。
具体例として、下記が挙げられます。

  • 間違った内容を入力するとアラートが表示されて入力を確定させない
  • 2人同時にログインできない
  • 複数人に同じ内容を入力させ、入力結果が異なると入力を確定させない

適度な休憩

長時間労働による集中力の低下は、ヒューマンエラーを引き起こします。
諸説ありますが、大人の集中力が持続する時間は平均45分、最長でも90分程度と言われており、長時間作業をしていると次第に効率が落ちてしまいます。
適度に休息を取らないと、効率的に仕事を進めることができません。

スイスチーズモデル

スイスチーズモデルとは、視点の異なるリスク対策を何重にも組み合わせることで、リスクを軽減できるという考え方のことです。
スイスチーズモデルを提唱したジェームズ・リーズンは、トラブルや事故のモデルをチーズの穴に例えて可視化しました。

ヒューマンエラーが想定される業務には、いくつかの安全対策が設けられていることが多いです。
それは物理的な対策、予防方法の浸透、技術的な対策、組織的な取り組みなど様々です。
それらの安全対策を重複することによって事故を防止して、安全を維持しようとする考え方です。

しかし、ヒューマンエラーが安全対策の脆弱な部分や連鎖的なエラーの隙間を通過していったときにトラブルや事故として現れます。

そのため、多くのケースでは、1つの安全対策のみではヒューマンエラーによるトラブルや事故を充分に防ぐことは出来ません。
上述の安全策を組み合わせることによりトラブルや事故のリスクを軽減させることができると言えます。

まとめ

ヒューマンエラーとは人為的ミスのことです。
状況により、軽微なトラブルや事故で済むこともあれば、重大なトラブルや事故が発生することもあるため、注意や対策が必要です。

ヒューマンエラーは「ついつい・うっかり型」と「あえて型」の2種類に分けられ、それぞれ発生原因が異なります。
ヒューマンエラーは、人が業務にあたる以上は決して避けられないものです。
ヒューマンエラーの原因を把握したうえで、今回あげた防止策によってトラブルや事故として顕在化するリスクを低減することができます。

個々のケースについて適切な防止策を考え、導入することが重要です。
防止策はただヒューマンエラーを防ぐだけでなく、業務の効率化や品質や成果の均一化など、業務上で多くのメリットが得られるものもあります。
自社に合った防止策を活用しましょう。

参考文献
・SmartDB:https://hibiki.dreamarts.co.jp/smartdb/learning/le-sp20220527/
・日本の人事部:https://jinjibu.jp/keyword/detl/1379/
・RICOH: https://promo.digital.ricoh.com/chatbot/column/detail149/